そでふり灯籠

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『絵本風俗往来』

菊池貴一郎 (芦乃葉散人)『江戸府内絵本風俗往来』(明治散38年)  青蛙社、一九六五
一三二頁 (中編巻之四 七月)

○武家方の燈籠納め
幕府御普代の御老中若歳寄を勤め給ふ家よりは奉書張なるいとも美事の切子燈籠を上野東叡山芝増上寺の両御廟宝前へ献ず諸侯方は各の菩提所霊前へ提灯あるいは切子の燈籠を奉ず是又美事なる出来にして数も多し。麻上下着たる武士付添て中間(ちゅうかん)燈籠を竹につりてかき行上野又は増上寺へ納むるは大箱に入れ中間四人づつにてかき行きて納む其式いと厳重なり
○高燈籠
是は寺院不残(のこらず)にはあらざれども十中三四は行ふなり長き丸太を杭して立て頂上へ杉の青葉を束ねて旗を垂れ燈籠をつり上げる盆中是を毎夜ともすなり随分陰気なる物なりし

二五八頁 (中編巻之四 七月)

○魂迎(たまむかひ)
七月十三日より十五日夜迄は盂蘭盆会にて真宗の一派を除き其他の檀家なるは武家町家何業の別なく魂棚をかざり先祖累代の精霊を始め有縁の霊は猶更無縁の族(やから)に至るまでの供養を営むこと貧富の別なく家ある族は一般とす。就中身柄ある武家筋目正しき町家に於ては魂迎とて十三日夕刻より各自の壇且寺に行墓前へ燈火を奉り礼拝をなし生けるを迎へ参らすが如く家々の定蚊(ぢゃうもん)付たる弓張提灯をともして路上をてらしつつ迎ける家の主人入口なる玄関まで妻と共に出迎ふ町家は主人着流羽織にて家内打つれて出むかふ時向火とて麻殻(おから)を門にて焚くなり去れば当日内外とも賑ふこと夥しかりし此以前より盆使進物の贈答あり刺鯖の進物町家は麺類を進物とす

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三〇三頁 (中編巻之五 十月)

○燈下の裁縫
当時一家の妻女子が家事に於ける炊事の外に縫針とす此裁縫年中の手順とするは冬季中着用せる異類は翌歳梅雨の頃には皆引ときて洗濯し張板に張上げ夏中に綿入幷に羽織胴着襦袢の類に至るまで一家中の着用を縫終りける奉公人ある家にては小僧の着用せる衣類とも悉く出来秋風の起る頃は家中一同それ羽織よまた袢天よと冬に至るや襦袢胴着已に仕立終りて葛籠箪笥等より取出し着するのみにして此時に臨みて針取ることをせず又夜中の夜着布団の類より足袋股引に及ぶまで必ず夏中に洗張縫直し終りたり扨此等の事ども終次第晴着類の蟲干をなす蟲干終るやまた夏衣の仕舞洗とて初夏に着用せる衣類の洗張より仕立直しをなすかくする中に秋も過て初冬となるや来年の新衣の縫針にかかるかく手ぐりせざれば繁き火災等の中の住居其中には吉凶の日間入あり都て此等の事共の捗らず怠る時は腑甲斐なき引ずり女房の誹譏はまぬがるることなく又は此中に祭礼且は芝居見物及び寺参り親類并に知己(しるべ)への無沙汰を見舞等あり又右の始末を運ぶに堪へず他人を傭ふて衣類の仕立洗濯を頼むは妻たるものの耻辱上なきこととせる習ひなり然れば此月等は白昼は勿論手業怠ることなかりける

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http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/767857
大変だったねえ・・・

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