そでふり灯籠

灯籠やあかりを集めています

『福翁自伝』福沢諭吉

『福翁自伝』潮文庫、一九七一
七十五頁 「緒方の塾風」から

私が一度大いに恐れたことは、これも御霊の近所で上方に行われる砂持ちという祭礼のようなことがあって、町中の若い者が百人も二百人も燈籠を頭にかけてヤイヤイいって行列をして街を通る。書生三、四人してこれを見物しているうちに、私がどういう気であったか、いずれ酒の機嫌でしょう、杖かなにかでその頭の燈籠をぶち落としてやった。スルトその連中のやつとみえる。チボじゃチボじゃとどなり出した。大阪でチボ(スリ)といえば、理非を分たず打ち殺して川にほうり込むならわしだから、私は本当にこわかった。なんでも逃げるにしかずと覚悟をして、はだしになって堂島の方に逃げた。その時私は脇差を一本さしていたから、ことにまずい。かりそめにも人にきずをつける了簡はないから、ただ一生懸命に駈けて、堂島五丁目の奥平の倉屋敷に飛び込んでホット呼吸[いき]をしたことがある。

……なにしてん……。

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