そでふり灯籠

灯籠やあかりを集めています

『燈籠』(太宰治)

(青空文庫)
http://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/1568_19909.html
“……
 針の筵の一日一日がすぎて、もう、こんなに涼しくなってまいりました。今夜は、父が、どうもこんなに電燈が暗くては、気が滅入っていけない、と申して、六畳間の電球を、五十燭のあかるい電球と取りかえました。そうして、親子三人、あかるい電燈の下で、夕食をいただきました。母は、ああ、まぶしい、まぶしいといっては、箸持つ手を額にかざして、たいへん浮き浮きはしゃいで、私も、父にお酌をしてあげました。私たちのしあわせは、所詮こんな、お部屋の電球を変えることくらいのものなのだ、とこっそり自分に言い聞かせてみましたが、そんなにわびしい気も起らず、かえってこのつつましい電燈をともした私たちの一家が、ずいぶん綺麗な走馬燈のような気がして来て、ああ、覗くなら覗け、私たち親子は、美しいのだ、と庭に鳴く虫にまでも知らせてあげたい静かなよろこびが、胸にこみあげて来たのでございます。”

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